Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “これからが本番☆”
 


高校生アメフトは春の大会も秋の大会も“選手権”であり、
春大会では関東ナンバーワンを決すところまでを戦い、
秋大会の方では、関東と関西それぞれの優勝チームが決まったその後、
日本一を競って戦う決定戦、
クリスマスボウルというのがゴールになっている訳で。
ところが、大学の方では ちと違い、
まず、春に催されるゲームは公式な試合ではない。
主催するところに於ける順位はつくが、
アメフト協会の管理監督する“順位”にはカウントされず、
一部、二部、三部、エリアに分けられたうちの、
それぞれのランクへの変動にも関わらない。
春に催されるゲームは、
正規のスタジアムを使って行われるものであっても、
そのほとんどが、
交流戦であったり、川崎フェスティバルの一環だったりと、
順位やランクに関わるそれではなく。
だからって、ないがしろにしてはならない期間でもあり。
春からという新規のチーム編成が、
果たしてどれほどのバランスなのかを、
真剣勝負さながらの“実戦”で試せる場であり。
他所のチームの今期の顔触れやら、
先輩が抜けてったポジションをどう繕ってあるか、
チームカラーはどう変わったかなどなど、
様々なデータを直接確かめられる大事な場であり、
尚且つ、正式な試合という動きや運営の中で、
自軍の編成や何やを客観的に把握し直せる場でもある。
ああこいつは 踏ん張るときに右の軸足の足首が弱いなとか、
テンポを測るくせが判りやすすぎるぞとか、
思わぬ突進をかけられなきゃ 気づけなかったりもしよう。
おや こいつってば、フェイントかけるの上手いじゃねぇかとかいう、
拾い物だってあるやも知れぬ。

 それらを踏まえ、夏休みという鍛練の期間を経て、
 さあ…と始まるのが、公式戦の秋リーグなのだ


  ………………なのだが。





某人気アニメの影響か、(……。)
近年、アメフトも結構メジャーになってきたスポーツで。
かつては インカレや社会人のそれでしか、
シーズンを設けてのリーグ戦を展開できるだけのチーム数がなかったものが。
このところは、サッカーやラグビーまでとは行かないながらも、
中高校生に於ける競技人口もチームも増えつつあるし。
ルールもちゃんと判った上で、スタジアムまで観戦に集まるファンも増えた。
関心がない人には、いまだにラグビーとどう違うのかも曖昧なそれだろうが、
それを言ったら、
サッカーの方が断然判りやすいという人の中に、
オフサイドをちゃんと見極められるほどのファンってどのくらいいるものか。
……いやいや、
サッカーファンへ喧嘩を売ってるワケじゃありませんので、お間違えなく。
ブルジョアな層のみが嗜む、
アメリカンなファッションだった時代はとうに終わっており。
フィギュアスケートやフェンシングも、
装備やレッスン、施設への費用や旅費などなどが かかりまくりで、
社長の息子や娘でもなけりゃあ続けられぬとは言うけれど、

 「まあね、例えばラクロスなんてのは、
  傍から見る分には…もしかして
  良家のお嬢様たちがキャッキャとはしゃいでやってる
  お遊びに見えるかもしれないけれど。
  冗談じゃない、全身アザだらけになりながら、
  半月板とか痛めながら、
  それでも頑張ってる、ずんとハードなスポーツなんだよね。」

そうなんだという現実を見知ってもなお、歯を食いしばって続けられるか。
レギュラー取ったる、強豪なんぞ蹴倒したると、意気盛んでいられるか。
そういう泥臭い汗臭いところもあるスポーツなんだよと、
思い知ってすごすごと辞めてゆく顔触れがふるい落とされ、
編成上でもシェイプアップされてののち。
さあこれからが本番だぞよと、走り出せるのも、
暑くて苛酷で長かった夏が明けてからの、秋からだと言えるのだが。

 「それって選手たちだけの話じゃないし。」

まだまだ強い陽射しが降りそそぐものの、
空の色合いがちょっぴり澄んで来たのを背景に。
部員簿を整理していたメグさんが、
赤いエナメルも麗しい指先でひいふうみぃと数えていたのは、
名前に二重線が長々と引かれた欄の数。
空に間近い高みの梢で風に泳ぐポプラの葉っぱが、
はたはたとその陰を踊らせる中、

 「新人の女子マネも、結局は5人と残らなかったしね。」

主務とマネージャーらを統括しているメグさんによれば、
単なるスポーツ部のマスコットやあわよくばマドンナに憧れてか、
それとも、誰ぞBFでも作れたら、
カレ氏がラガーマンだなんてカッコいいじゃないと、
その時点で間違っとる、勘違いマネージャー志望の女子らが、
数十人規模で押し寄せたのを。
本当に有望なのを残して一掃出来るのも、
苛酷な夏合宿を経てからであるらしく。

 「まま、ウチの大学に来ようってクチなら、
  前評判も多少は拾っていようから。
  柄が悪いの荒っぽいのは覚悟してもいたでしょうし。」

なので、アメリカングラフィティっぽい、
ちょっとキザだが爽やかなスポーツマンの集まる場だ…とまでは、
さすがに思ってなかったようだが。
オートバイ乗り回す、喧嘩っ早い骨太男子でもいいじゃない、
わたしたち草食系はもう飽きたから、
大人のお付き合いするなら
ワイルドな人がいい…とでも思って集まって来たよな顔触れには、

 「ま、現実を見せたほうが早かったってとこでしょね。」

恐持てたちが正しく体育会系の厳しさで、
よく言ってストイック、
見たままで言やあ何の荒行だと思わせるよな、
ハードな練習三昧なのへ。
泥だらけ砂まみれの汚れへは我慢出来ても、
殺気立ってる空気や、
応援団もどきの上下関係などなどには
恐れをなして脱退してゆく子らが続出すること
東京湾は三番瀬の、大潮の引きのごとし。

 「判りにくいぞ、もーりんさん。」

こちらさんはトレーニングスケジュールのバインダーを小脇に抱えた、
小柄で金髪の鬼軍曹さんが、
クラブハウスから飛び出して来たそのまま、
場外の筆者へのツッコミを放って寄越す即妙さよ。
……喩えがややこしくて悪ぁるかったわねぇ。(苦笑)
小柄なのもしようがない、だってまだ小学生だし、
金髪をふわり揺らしているお顔も子役モデルのように色白で端正だが、

 「セナも言ってたぞ。
  大学の部は、運営やらスカウティングの資料整理やらが
  ぐんと本格的になるんで大変で、
  持ち上がりのおねいさんたちでも辞めてく人はいるよって。」

お友達の親しくしている王城大の話を持ち出し、

 「王城でもってのは凄いねぇ。」

高等部からして 賊学(ウチ)どころじゃあない、
そんな規模で大所帯のアメフト部で揉まれた女子でもかと、
やや驚いたメグさんだったのへ、

 「ユニフォームの洗濯とか試合会場までの備品運びとか、
  選手たちへのケアだとかお世話とか、
  目に見えるものだけだって甘く見てたのかもね。」

微妙に辛辣な言い方をし、一丁前に小さな肩をすくめて見せてから、

 「ウチの場合は、
  お化粧バリバリ、マニキュアきらきらなメグさんが居るんで、
  何だここは余裕な部なんだって勘違いしたって人が多かったのかも。」

そんなお言いようを付け足したもんだから。

 「あら、そんじゃあアタシのせいかい?」

聞き捨てならないねぇと、
うっかり口が滑ったでは済まなさそうな
おっかないオーラがメグさんの背後へ立ちのぼりかかったものの、

 「うんvv メグさんが きれえすぎるせいvv」
 「も〜ぉ、この子ったら〜〜〜vv」

 ……わぁいvv ある意味 お約束?(笑)

女性に対してそんな初歩的な粗相はやらかしませんという、
やっぱり手ごわい坊ちゃんが、
よいしょと付いたのが、メグさんとそれから、
ツンさん銀さんという選手側の幹部、
もとえ、ポジションリーダーとが顔をそろえていた木陰のベンチ。
九月に入ってすぐに初戦も始まった、
秋大会に向けての詰めをとの首脳会議を開いておいでで。

 「ルイは?」

グラウンドを見回すまでもなくと、小さな軍曹さんへ訊く銀さんへ、
バインダーを開きつつ、おちびさんはどこか気のないお返事を返す。

 「知らね。」

此処まで来るのに呼び出したので、顔は見たけど。
バイクを停めて来るって駐車場に行ってから
まだ戻って来ねぇもんなと。
言いようこそ一人前ながら、
自分まで放って何してやがるかなという
立派な憤懣を思わせる口調でのお返事だったのが、
あとの面々へ、こっそりとした苦笑を誘う。
大人ぶっていたって、あの総長さんさえ格下だと振る舞っていたって、
こういう隙からこぼれるのは、
別な、判りやすい、甘酸っぱい気持ちの表れなのが可愛いったらvv

 「???」
 「いやいや、いや。」
 「なんでもないさ。」

そうそう、それはともかくとして。

 「ウチだって、
  チアはともかく、主務やマネは持ち上がりの顔触れもついて来るし、
  部外の連中だってどういう空気の部かは重々知ってようにねぇ。」

なんでまた、
一回生の時点で女子マネがどっと入って来るのかが
不思議で不思議でしょうがないと。
こうやって辞めてくのを見送るのも
多少はストレスになるらしいメグさんとしては、
入り口でもある“そこ”が腑に落ちないようで。

 「外部入学してきたクチは、割と普通の高校から来た子が多いから、
  そこのところの認識が浅いってのかなぁ。」

 「でも、ウチのアメフト部って言ったら…って評判は、
  そこいらでちょっと訊いて回れば、
  すぐにも険悪なのがぞろぞろと集まって来ようもんだろうに。」

インカレスポーツといえばの一般的な印象、
まんがやドラマに出て来そうな華やかなノリを求めて来る子が、
ウチでも絶えないのは何でだろと。
察しのいいメグさんやツンさん辺りが小首を傾げていたけれど。

 “…ったくよ。どこなと行っちゃあ、誰なと助けてんじゃねぇよ。”

あわよくば
アメフトボウラーのカレ氏が出来そう…なんてな、
メグさんたちが予想している雛型通りのノリとは微妙に違くて。
窮地にあったところをそれは鮮やかに助けてくれた人だものと。
それは強いインパクトでもって
印象づけられてしまった相手を目指して
入って来たお嬢さんたちなもんだから。

 きっと他の人の前ではぶっきらぼうなポーズをくずせないんだわ、とか。
 人助けしたなんて照れ臭くて明かせないのね、とか。
 わたしとの出会いは、誰にもさらけ出してはいけない神聖な秘密なのね、とか。

そんな夢見がちな想いを抱えて、
ぞろぞろ性懲りもなく集まって来てるんだと、
実を言うと、鬼軍曹さんには判っておいで。
ぱらりとめくった資料のトップ、
一応の念のため、
一回生でもお顔を見間違えぬようにと貼られたプリクラ大の写真を、
ついついむむうと睨んでしまった妖一くんの視線の先にいたのは、
先程、大きなバイクを余裕で押してったお兄さんの精悍なお顔。
彼こそ一番恐持てな、族の頭目だってのにね。

 『どんだけドラマチックに助けたんだ、え?』

元凶たる“ご本人”に、
いつだったかそうと訊いてみたところが、

 人気のない海岸通りの抜け道で、
 道に迷って歩いてたところに通りかかった?

 高架下でBFに襲われ掛かってたところへ、
 それと知らず近道だと突っ込んだ?

 大風で猪口になった傘を腹立ち紛れにぶん投げたら、
 いちゃもんつけてた与太者に
 クリーンヒットして助けたことになっちゃった?

意図して手を述べた場合ばかりじゃなかったようではあるらしかったが。
そんな劇的に現れた殿御では、なるほど、胸キュンしても無理はないかもで。
そんな彼にもう一度会いたいと集まって来た女子の人ばっかだったなんてのは、


  ―― 癪だから、絶対に言ってやらん。


永遠の謎になっちゃえばいいんだと、口元ひん曲げた坊やだったそうで。
いやはや、まだまだ残暑の厳しい九月のようですね。

  「……っ、ルイっ、遅いぞっ
  「悪りぃ悪りぃ。」






     〜Fine〜  12.09.12.


  *ウチのルイさんはは天然です。
   え? 知ってましたか?
   それはまた、子悪魔坊っちゃんに並ぶ
   ルイさんフリークですなvv
(こらこら)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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